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喧騒ノイズ論

放課後、二番街の本屋で品定めをしていると、僕を呼ぶ声が聞こえた。

「おー!ゆうちゃん来てくれたんだ!」

彼女の名前は楓、僕の幼馴染だ。

「そりゃ、本屋はこの街にここしかないからな」

僕は素っ気なく返す。

楓はこの本屋の娘で、僕と同い年の女の子だ。
高校二年生になった楓は、制服姿が良く似合っていた。

…実を言うと、僕は楓のことが好きだ。
昔から楓はちょっと変わり者で、
下校中なんか周りの目を気にせず口笛を吹いたり、
丸めた紙を煙草に見たてて吸うふりをしていたり、
とにかく変わり者だったが、そこがまたたまらなく好きだ。

「そうそう、ゆうちゃんがこないだ買ってた本、今度貸してよ」

…僕はまだ楓にそのことを伝えられていない

「お前、本屋の娘なんだから本ぐらい自分で買えよ…」
「やだよ!同じ内容なのにいちいち買ってたらお金もったいないじゃん!」
「それを本屋が言うのかよ…」

楓は昔からこの街が好きだと言っていた。

がちゃがちゃした色彩の家と家、
膨大な情報量を押し付ける張り紙、
道端に置いてあるガラクタ、
家の間の裏路地と、その隙間を照らすオレンジ色の蛍光灯、

それら全てが好きなのだと言っていた。

「んじゃ、また明日その本持って来てやるから」
「本当?いいの?やったー!」

相変わらず僕はこの気持ちを曖昧なまま残している、
楓は楓で、昔からそういうことに鈍感なままだ。

また明日も明後日も、ずっとこんな日々が続けばいいな。

 

 

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