top of page

龍の棲む村
私はこの街の「長葉神社」の所有者である、宮嶋という者だ。
もとより、私はあの神社の神主ではないので、
定期的に清掃業者に清掃を依頼する以外はあまりあの神社に寄ったりはしないのだが、
先日、その神社の書庫を確認していると、気になる書物を発見した。
麻紐のような粗末な紐で括られたその今にも破れてしまいそうな書物に私は目を留めた。
ゆっくりとそれを解き、読んでみる。
昔の字は非常に読みづらいが、どうやらこの地に伝わる「龍」の伝説について書かれているようだ。
「…龍、か。」
この街に住む人間であれば、一度はその言い伝えを聞いたことがある。
とはいえ、誰もが半信半疑な話だったが…。
この書物によれば、龍は七百年に一度目覚め、この地に壊滅的な水害をもたらすらしい。
…そういえば、龍とは元々中国で頻発した川の氾濫、その濁流を「龍」と表現したと聞いたことがあるが…。
読み解いていくと、書物の中に地図のようなものを発見した。
陸続きの大きな大陸に、この神社の位置も示されている。
なるほど、龍が居るとされているのはこの「柚香山」という山か…。
…「柚香山」?
地図にはこの神社の位置も示されているが、この距離…。
間違いない、柚香山は今の「柚香島」だ。
確かにあの島にも神社が在ったな…。
ということは、数百年前に起きたであろう水害にとってこの地が沈み、
そして柚香山が島となって残ったということか…。
地図を見る限り、この書物が作られたあとすぐに水害が襲ったのであろう。
そして書物の最後のページには、その書物が編纂された年号が書いてあった。
「…今からちょうど七百年前だ………。」