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オレンジピール

 

 

 

この街に住む一人の青年は悩んでいた。

 

彼は数日前、交際相手に別れを切り出された。

狭い街での出来事、隠そうにも隠しきれず、

街の人、ご近所さんの気遣いが心に痛い。

 

コーヒーを一杯飲んで、出かける準備をする。

二番街の八百屋まで、オレンジを買いに行こう。

この街はオレンジが特産品で、いつでも安く売っているのがありがたい。

 

買ってきたオレンジは、皮の中にパンパンに果実を実らせていた。

まるで今までの思い出が詰まっているかのようだ。

 

彼はオレンジを二つに切って絞り、果汁を取り出してそれを飲んだ。

酸っぱい。やはり市販のジュースと違って、本物の果汁は酸味が強いものだな。

 

絞り終わった皮に付いていたオレンジの種を取り、彼は小さな植木鉢にそれを植えた。

 

気づくと涙が出そうになっていた。

彼は果汁を全て飲み干すと、商店街で買った画材に絵を描き始めた。

 

…ふと、目を覚ますと朝になっていた。

どうやら途中で寝てしまったらしい。

画材に描かれた絵の端には「あなたの幸せを願っています」と書かれていた。

きっと僕が寝る直前に書いたのだな、そうに違いない。とそう思った。

 

彼は描き上げた絵をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

そうしてオレンジを手に取り、再び出かける準備を始めた。

 

 

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